1
「さぁ、皆さん、大晦日特別生放送番組『年末しりとり大会』の時間がやって参りました!!」
司会者の声と軽快な音楽が、とある家族の居間に響き渡る。
司会をしているのは現職の猿渡総理と有名な司会者で、カメラに向かって自信満々の笑みを浮かべている。
画面の隅には芸能界から政財界かけて友人と思われる人達がゲストとして豪華な服を着て座っていて、緊張しているよりも番組自体を遊びと思っているのか軽い笑いと雰囲気が漂っていた。
2
総理がルール説明をする。「今夜は特別なルールを用意しております!!しりとりの既存のルールに+αしてワード1つに対して1000円加算されます!!」
このルール説明にどれほどの国民が自分の耳を疑っただろう。
総理はそんな事はお構いなしにしりとりを始めた。
「えーと、私から始めますね。『りんご』!!」総理は得意げに言葉を発すると、司会者が「ごま油」と続ける。
友人の番に回るとここから見るに耐えられなかった。
しばらくは長文で発音する言葉が続き、賞金の額はどんどん積みあがってきた。
「な、なんだってー!!」と、あるゲストが大声を上げる。
隣のゲストが「て、手品!」と続け、その言葉に反応してまた別のゲストが「じ、自己中心的!」と言い返す。
お金が絡むからか、ヒートアップしているからなのか、表情は硬くなり、時には声を荒げいがみ合う様子が生放送で流され続けた。
番組自体は多額の税金を費やし制作されたそうだが、ゲスト陣は一流だと紹介しても、いい歳した大人が子供じみた遊びで剥きになっている様は醜態としか言い様がなく、もはやしりとりはただ言葉の応酬ではなく、彼らのプライドを賭けた戦いと化していた。
家族の中の一人が、茶番に付き合えないとばかりにリモコンを取る。ポツリと「もう見たくない」と呟きながらTVの電源ボタンを押し、画面は真っ暗になる。居間には、ただ大晦日の静けさが戻るだけとなった。
3
後日、しりとり番組の視聴率が発表されたが、1桁台で誰から見ても明らかに低かった。
総理は弁明する為に連日報道番組に出演していたが、国民は見向きもせず、結果的に総理の支持率は歴代の総理では初めて1桁台を記録し、その事実が直結する形で信頼を取り戻すことは出来ず最後は半ば逃げる様に側近共々辞職した。
一方ゲストとして参加してた者にもTVを中心に非難の矛先が向けられ、番組が放送されて以降公の場から姿を消していた。
生放送で醜態を晒したのが影響したからなのか、日に日に非難の度合いが強くなり、まるでそれらから避ける様に続々と表舞台から去っていき世間から忘れ去られていった。
中にはしりとり番組を税金の無駄使いだの愚策だのと手のひら返しをして総理を批判する者もいたが、そもそも参加すると判断したのは彼ら自身であって、辞退する事も出来たのだから、批判する筋合いもなく、お互い様としか言いようがない。
番組は後世に愚策の手本として後続の総理に反面教師として語り継がれることになった。
ともあれ、一人の政治家の私利私欲であっても、日本国民にとっては迷惑な話であれ、しりとり番組が放送された大晦日は忘れられない1日になったのは確かだ。
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