1.表
高校の鐘がなり響き、3人の女子高生が笑顔で校門を出た。
彼女たちの目的地は、最近話題のドーム型のカフェ「スターライト・ドーム」で、店長のイケメンぶりが噂になっており、彼女たちはその真意を確かめようとうずうずしていた。
高校から歩いて10分程でカフェに到着すると、その噂は確かなものだった。
お店に入るな否や、爽やかなそうな、尚且つ雑誌から飛び出したような端正な顔立ちの店長が彼女たちを暖かく迎え入れた。
店長の案内で店の中央にあるテーブルに座ると、女子高生たちは早速カラフルなパフェとパンケーキを注文し、来るまでの間に恋バナに興じた。
「ねぇ、最近気になる人いる?」「うん、実はね……..」と恋バナに花が咲き、注文した物が届けられると、食べながら好きな先輩の話や、デートしようかの話などをし、無邪気な笑顔を見せながら、楽しい時間を過ごした。
時間はあっという間に過ぎ、そろそろ家に帰ろうと彼女たちは声を掛けた。
会計を済ませると、店長がわざわざ入り口まで送り、にこやかな笑顔で「またの来店をお待ちしております」と言って彼女たちに声を掛けてくれた。
その言葉を聞いた時に彼女たちは頬を赤らめつつも「はいっ!!」と答え店を後にした。
店長はしばらくの間彼女たちの後ろ姿がなくなるまで見送り続けた。
2.裏
気配が遠のくのを感じる。
店長は店に戻り、女子高生が使ってたテーブルをふきんで拭いていく。
すると、奥からガタガタと物音がしてきた。
その音を聞いた時、店長はエプロンのポケットからおもむろに鍵を取り出した。
音が出たのは裏口付近からだった。
店長はドアノブに鍵を指して開けると、そこには世代や性別がバラバラな大勢の人間がいた。
店長はその人間たちを一瞥すると、店から出る様に促した。
ぞろぞろと店に人が流れていく。
先ほどの雰囲気とは違い、どこか異様だった。
恍惚としている者、興奮し落ち着かない人、目を輝かせて喜んでいる人……..。カフェに溢れるこの光景を見て店長はほくそ笑む。
手ごたえを感じているのか納得した表情をしていた。
その表情の根拠はなんなのか?
その答えはカフェその物にあった。
実はカフェ自体は表向きであり、実態は観察専門の店で、店長はこの店のオーナーだったのだ。
法令に触れない工夫をするため店は2重構造になっており、マジックミラーで加工され、観察目的で来た者は専用の部屋に案内されることでカフェにやって来た客の様子を見る仕組みになっていた。
つまり、先ほどの女子高生たちの様子は彼らにすれば観察の対象であり、気分を満たす道具に過ぎないのだ。
それは店長も同様で、自分がオーナーである以上、客の他愛ない会話やその時に不意に出る表情も彼にして見ればビジネスにおける道具であり、高校の近くに店を構えたのも若者たちを引き寄せ確実に金を稼げる戦略でしかないのだ。
客たちは満足した様子で店を後にし、去り際の姿を見て店長は「滑稽だな」と呟き、再び「またの来店をお待ちしております」と言って、頭を深々と下げ見送った。
客の気配が感じなくなると、閉店の準備をする。
カフェの灯りがひとつずつ消えていく中、頭の中で一瞬だけ満足した客の顔が浮かんだが、それはどうでもいい事で、これからも彼らの秘密やこのカフェの秘密も、まだ誰にも知られずに明日も続いていくのは変わりはないのだ。
夜の帳が下り、店長は微笑んだ。
何事もなかったかのようにシャッターを下ろし、その音は夜に紛れる様に溶け込んでいった。
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